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南サンドリアのクリスタルの目前まで来たとき
拙者は背後から呼び止められた。

「wait」

振り向くとエルヴァーン♂が拙者の傍に走り寄ってくるところであった。
声をかけてきたエル♂はレベル30の赤魔だった。

「【なんでしょう?】」 (ちなみにエル♂とは終始、英語+定型文の会話)

「私の手助けをしてはもらえまいか?」

なんだろう。
何を頼まれるのか。
拙者程度で手伝える内容であればいいんだけど・・・


「私は雪の天候を所望しているのだよおぉおおぉ!!」
(実際には i wont ice weather!!!!!)


それはつまり、天候が
雪とか吹雪とかの場所に行きたいということであろう。

ヴァナ・ディールで雪の天候といえば確か、
ラングモント峠を抜けた先のボスディン氷河を含んだ地域一帯である。

バタリア丘陵でも時折、雪が降るらしいがかなり稀。

ふむ

どうせ拙者も今まさにラングモント峠を抜けてボスディン氷河に行こうとしていた身。

旅は道連れ。

ふっふっふ このエルオスさん
なんとうってつけな人物に声をかけたものよ (`ω´)フォッフォッフォ

「ラングモント峠→ボスディン氷河に行きたいってこと? 一緒に行こうか?」

「ok ついて行く」

といったワケで
エルオスさんと拙者とでボスディン氷河へ向かうこととなり、
東ロンフォールに出たところで2人パーティとなる。

走りながら問い掛ける。

「雪の天候・・・ってことは、召喚士かい?」

召喚士になるには、条件のひとつとして
7つの天候の場所に赴かなければならない。
雨とか快晴だとかのうちのひとつに雪が含まれる。

実際、拙者が召喚士を会得したときにも
雪以外の場所が順調に集まり、
最後に雪の天候の場所に行くべく・・・そのときはレベル30の戦士だったか?
戦士でプリズムパウダーとサイレントオイルを駆使して
(行きで2つずつぐらい消費して、帰りは呪符デジョン)
1人で地図のないラングモント峠を突破した。

拙者が知っている限りでは、雪の天候を欲するのは
召喚士となる条件を満たすときぐらいのものである。

「そのとおり」

ほほぉ 貴公も召喚士を志す身なのか
今は事情があって赤魔を伸ばしているものの
こう見えて拙者も、ゆくゆくは召喚士も伸ばすつもりでいる身。

「実は俺、召喚士26なんだよ」

「oh!」

この「oh!」の直後、英文で何かダーッと言われたのだが
いまいち内容が掴みきれず、しかし
その文の中に「まだ」とか「他の天候が」とかの言葉が見受けられた。

このときのエルオスさんの言葉を、拙者は
「まだ他の天候を習得していないので、雪の天候は後回しにする」
と言ったのかと思った。
(今、思い返せば「雪以外にも、まだ修得していない天候があるんだが」
と自嘲的なことを言っていたような気がしないでもない)


その言葉に拙者が立ち止まり、
後ろをついてきたエルオスさんも拙者の隣で立ち止まる。

「ん? ボスディン氷河に行くの止めにする・・・?」

「???」

このとき多分、エルオスさんと拙者はほぼ同時に、
お互いに相手の言葉を理解しきれていないと判断した。

「否、そうではないんだが・・・すまん 自分は英語があまり得意ではないのだ」

だとしてもボスディン氷河に行くこと自体は変わらないようなので
ラングモント峠を抜けるだけであれば
それほど細かいニュアンスがお互い通じ無くても大した問題ではなかろう。

「問題ないっしょ (`ω´)b」

再び、エルオスさんと拙者はロンフォールを走り出す。

「・・・キミは何処の人なのだ?」

「日本人だよ」

「cool! 私はオーストラリアからだよ!」

「良いね!」

そんな会話をしつつ、二人はラングモント峠に到着したのであった。



ラングモント峠に踏み込み、最初に扉を抜けたところから
エルオスさんにはインビジとスニーク状態になってもらう。

お互いに離れないよう洞窟内を走る。



3分の2程進んだところで――

「キミを見失った」

え?

拙者のカーソルはエルオスさんを指し示したままである。
すぐ隣にいるはず・・・が、どうやら通り一本挟んで逸れたらしい。
しかしまだ距離的には近いので
エルオスさんからカーソルが外れていなかっただけに過ぎないようである。

「分かった。 そこで待ってて」

「k」

すぐさまエルオスさんのところへ引き返す。
地図を持ってないので相手が何処に居るかも分からない。
まだ生きているカーソルだけを頼りに探る・・・お 発見。

てぇか、エルオスさん丸見えになっとる ∑( ̄□ ̄;)

拙者が走り寄るとエルオスさんも拙者に気付いて
こっちに走って来――その瞬間、アーリマンに絡まれてしまったエルオスさん。

応戦。

するとそばに居たらしいコウモリにまで絡まれてしまった。
アーリマンとコウモリを同時に相手にする。
拙者からすれば2体とも【練習相手にもならない】であるが
多分、辛うじてその程度であり、一方的に叩きのめせる程の差はない。

拙者がタゲを取り、エルオスさんが拙者をサポートするような形でなんとか2匹を下す。

直後、そばの安全と思われる場所まで移動して二人でヒーリング。

ヒーリングしたあと、また2人で走る。
お互いにはぐれないように用心しながら走っているとエルオスさんがふと呟いた。


「キミに声をかけたのは、私にとって幸運だ」


お世辞であることぐらい百も承知である。
しかしそれでもエルオスさんの言葉はとても嬉しかった。

もしかしたらこのエルオスさんは拙者以外にも誰かに何度か
「雪の天候の場所に行きたいんだが」と声をかけていたのかもしれない。
そうじゃなかったにせよ、とにかく拙者に声をかけてみたら
あっさり「んじゃ一緒に行こうか?」だった。
拙者とて別の何かの用事中であったら
同行しなかった(できなかった)かもしれない。

このエルオスさんに限らず、プレイヤーのほとんどが
普通に生活しているぶんには、生活区域・年齢・性別・社会的地位
その他諸々の要素で、接点すら生じ得ない人達であろう。

しかしオンラインゲームを通じて一つの場所に集い、
お互い協力して時には反目したりもして冒険を楽しんでいる。

今、拙者の斜め横を走っているエルオスさんにしても
当人が言うとおり、オーストラリア人(もしくはオーストラリア在住)だとしても
ヴァナ・ディールでなければ、一体何処でどう行動すれば
同じ目的地を目指して一緒に走ることになるのであろうか。

もし万が一、いつか何処かでエルオスさんの中の人と現実に出会ったとしても、
お互いの正体に気付くことはおそらくない。

そう考えると実に不思議な感覚であり、体験である。



さて、そうこうしているうちに
何度かコウモリに絡まれたりはしたものの
ラングモント峠を抜けることに成功。

吹雪吹き込む洞窟内に、
エルオスさんが雪の天候によって
条件のひとつを満たせた歓声が響く。

拙者が拍手で祝うと、エルオスさんは敬礼してくれた。


さて、どうするか

拙者は更に先へ進んだ場所に用事がある。

しかし、わざわざ拙者なんぞに声をかけてきたぐらいのエルオスさんを
1人でラングモント峠を通って帰らせるワケにも行かない。

拙者がこの先で成し遂げなくてはならない用事も
そんなに手間のかかることではないように思うが
だからといってどれぐらい時間かかるかもしれないのに
その間、エルオスさんを洞窟に待たせておくワケにもいかない。

「エルオスさんはこのあとどーするの?」的に聞いても
呪符デジョンは所持していない様子。

お互いに意思疎通に四苦八苦しながらも
2人でラングモント峠を再度抜けてロンフォールに帰ることにした。

しかし途中で完全に通るべき道を見失ってしまい、
洞窟内を彷徨っているうちに
エルオスさんがコウモリに絡まれてしまい、
辺りにいたコウモリが一気に5体ほどもリンク。
そしてコウモリに応戦し始めて姿が丸見えとなったところへ
更にゴブリン2匹が絡んできてしまった。

結果、エルオスさんはフォローする間もなくその場で昇天してしまい、
拙者もコウモリ5体前後にゴブリン×2の多勢にドンドン追い込まれていく。

ここは一旦、サンドリアに退却して
その後、エルオスさんをレイズしに洞窟まで戻ろう。

そう判断して初めて連続魔を使用――デジョンを唱える。
魔法リストからデジョンを選択した途端、
即効果が発動して一気にサンドリアに戻った。

サンドリアに戻ってすぐ「レイズしに行くから待ってて!」と告げると
「私はサンドリアがホームポイントだからこのまま飛ぶのがベターに思う」と返ってきた。

直後、サンドリアに戻ってきたエルオスさん元に走り寄ると
エルオスさんは拙者を気遣ってその場で敬礼した。

拙者もカバーしきれなかったことをエルオスさんに詫びる。

まぁ・・・アクシデントが発生してしまったのは残念ではあるが
エルオスさんの目的自体は果せたのだから、それで良しとするか。

エルオスさんにパーティ解散を告げるときに
敢えて【召喚士】と呼び、旅の幸運を祈る。

また会おうと挨拶を交わして、
異国異種族の即席2人パーティを解散したのでありました。
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